AWS Transit Gateway — ハブアンドスポークネットワーク
AWS Transit Gateway のルートテーブル設計、VPC/VPN/DX 集約、セグメンテーション、マルチリージョン Peering を SAA 基礎から SAP 高度設計まで解説。
AWS Transit Gateway (TGW) は、複数 VPC とオンプレミスを ハブアンドスポーク で接続する クラウドスケールのルーティングハブです。VPC ピアリングの組み合わせ爆発を解消します。 本記事では TGW のルート設計とセグメンテーションを SAA / SAP 両面から整理します。
SAA レベル:基礎概念
VPC ピアリングの限界と TGW の利点
VPC ピアリングは VPC 間を直接接続しますが、接続数が N×(N-1)/2 に爆発 する課題があります。 また、ピアリングは 推移的ではない(A-B, B-C があっても A-C は自動接続されない)という制約もあります。
TGW は 中央ハブに全 VPC を接続 することで、これらの課題を解決します。
SAA レベル:基礎概念
TGW は 「ネットワークのハブアンドスポーク化」 です。 全 VPC が TGW に接続すれば、TGW 経由で任意の VPC 間通信が可能になります。 N 個の VPC の接続管理が O(N) に簡素化 される点が SAA の核心メリットです。
# VPC ピアリング(組み合わせ爆発)
VPC-A ── VPC-B
│ ╲ ╱ │
│ ╲ ╱ │
│ ╱ ╲ │
│ ╱ ╲ │
VPC-C ── VPC-D ← 6 本のピアリングが必要
# Transit Gateway(集約)
VPC-A ─┐
VPC-B ─┼─ [TGW] ← 4 本のアタッチメントで済む
VPC-C ─┤
VPC-D ─┘
TGW の接続対象
TGW は以下のアタッチメント(接続)をサポートします。
| アタッチメント種別 | 説明 |
|---|---|
| VPC | VPC のサブネットを TGW に接続 |
| VPN | Site-to-Site VPN を TGW に集約 |
| Direct Connect (Transit VIF) | DX 経由オンプレミス接続 |
| TGW Peering | リージョン間 TGW 同士の接続 |
| TGW Connect | GRE カプセル化でのサードパーティ機器連携 |
SAA 試験のポイント
TGW は VPN, Direct Connect, VPC, リージョン間 Peering をすべて 1 箇所に集約 できます。 これが「ネットワークの単一管理ポイント」を実現する根拠です。
TGW ルートテーブルの基本
TGW は 1 つ以上のルートテーブル を持ちます。各アタッチメントは 伝播 (Propagation) で経路をルートテーブルに自動登録します。
TGW ルートテーブル (デフォルト):
10.0.0.0/16 → VPC-A アタッチメント (伝播)
10.1.0.0/16 → VPC-B アタッチメント (伝播)
192.168.0.0/16 → VPN アタッチメント (伝播)
- 動的ルーティング (BGP): VPN/DX は BGP で経路を自動伝播
- 静的ルーティング: VPC アタッチメントは VPC の CIDR が自動伝播
SAP レベル:高度な設計シナリオ
複数ルートテーブルによるセグメンテーション
SAP では 複数の TGW ルートテーブル を使ってネットワークをセグメンテーションします。 これは本番/非本番、部門間、コンプライアンス境界などの分離に使われます。
SAP レベル:高度な設計シナリオ
TGW の真の力は ルートテーブルを複数持ち、アタッチメントごとに適用テーブルを切り替えられる 点です。 「本番 VPC は本番ルートテーブル、開発 VPC は開発ルートテーブル」と分けることで、 意図しない経路交差を防ぐ セグメンテーション を実現します。
TGW Route Table: "Production"
- VPC-Prod-App (アタッチ、伝播: yes)
- VPC-Prod-Data (アタッチ、伝播: yes)
- DX-Transit (アタッチ、伝播: yes)
→ Dev VPC の経路は伝播なし(通信不可)
TGW Route Table: "Development"
- VPC-Dev-App (アタッチ、伝播: yes)
- VPC-Dev-Data (アタッチ、伝播: yes)
→ Prod VPC への経路は伝播なし(通信不可)
TGW Route Table: "Shared Services"
- VPC-Shared (アタッチ、伝播: yes)
→ 全 VPC からアクセス可能、ただし Shared から各 VPC へは制限
アタッチメントと伝播の設計
各アタッチメントには 「関連付け (Association)」 と 「伝播 (Propagation)」 の 2 つの概念があります。
| 概念 | 意味 | 設計論点 |
|---|---|---|
| 関連付け (Association) | アタッチメントが どのルートテーブルを見るか | デフォルトゲートウェイの決定 |
| 伝播 (Propagation) | アタッチメントの経路を どのルートテーブルに書き込むか | 他セグメントからの到達性制御 |
関連付けと伝播の混同
関連付け は「そのアタッチメントからパケットを送る際に参照するルートテーブル」、 伝播 は「そのアタッチメントの経路をどのテーブルに広告するか」です。 この 2 つを混同すると、片方向のみ通信できる奇妙な状態になります。SAP の典型的な落とし穴です。
TGW Peering によるマルチリージョン接続
リージョン間で VPC を接続するには TGW Peering を使います。
- TGW Peering は AWS バックボーン網を経由(インターネット不使用)
- リージョン間通信が 暗号化不要(AWS 内部通信)
- データ転送料金が発生(リージョン間転送)
[TGW 東京] ──peering── [TGW バージニア]
│ │
VPC-JP-A, VPC-JP-B VPC-US-A, VPC-US-B
Peering の制約
TGW Peering は 1 対 1 で、推移的ではありません(A-B, B-C があっても A-C は直接必要)。 ただし、TGW Peering 経由で オンプレミスに横流し することは可能です。
TGW Network Manager による可視化
Transit Gateway Network Manager は、グローバルネットワークの可视化と管理を提供します。
- トポロジーのグラフィカル可視化
- リアルタイムの経路・接続状態監視
- イベント通知(接続断、経路変更)
運用設計のコツ
Network Manager の Events を EventBridge に連携し、 接続断を Slack や PagerDuty に通知する仕組みを構築すると、 大規模ネットワークの運用負荷が大幅に低下します。
TGW と VPC のサブネット設計
TGW に VPC をアタッチする際、TGW 専用のサブネット を用意するのがベストプラクティスです。
VPC-A (10.0.0.0/16):
Subnet-A-Private (10.0.1.0/24) ← アプリ用
Subnet-A-TGW (10.0.2.0/28) ← TGW 専用 (/28 で十分)
└── TGW ENI が配置される
- TGW 専用サブネットは /28 以上 であれば十分
- TGW ENI は各 AZ に 1 つ配置されるため、複数 AZ にサブネットを用意 すると冗長化
- TGW サブネットへの経路は 0.0.0.0/0 → TGW に設定
コスト最適化設計
TGW のコストは アタッチメント時間料金 + データ転送料金 です。
| コスト要素 | 説明 | 最適化手法 |
|---|---|---|
| アタッチメント料金 | VPC/VPN アタッチメント毎の時間課金 | 不要アタッチメントの削除 |
| データ転送 (GB 単位) | TGW 経由のトラフィック | 同一アタッチメント内通信は課金なし |
| リージョン間転送 | TGW Peering 経由 | リージョン間通信の最小化 |
コスト増の典型パターン
「全 VPC を 1 TGW に集約→リージョン間通信がすべて TGW Peering 経由」 になると、 リージョン間データ転送料金が想定以上に増加します。 リージョン内完結のトラフィックとリージョン間トラフィックを TGW を分けて 設計する判断も SAP には求められます。
制約とクォータ
| 項目 | デフォルト | 備考 |
|---|---|---|
| TGW あたりアタッチメント | 100 | クォータ拡張可能 |
| TGW あたりルートテーブル | 50 | セグメンテーション設計に影響 |
| TGW あたり経路数 | 10,000 | BGP 経路集約で管理 |
| TGW Peering | リージョン間 1 対 1 | 推移的ではない |
まとめ
- SAA: TGW はハブアンドスポークで VPC ピアリングの組み合わせ爆発を解消。 VPN/DX/VPC を 1 箇所に集約できる点を理解する。
- SAP: 複数ルートテーブルによるセグメンテーション、関連付け vs 伝播の設計、 TGW Peering によるマルチリージョン、コスト最適化の判断が求められる。
次は VPC Peering vs Transit Gateway vs PrivateLink の比較 で、 3 つの接続手法の使い分けを整理します。