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RTO と RPO — 目標復旧時間と目標復旧時点

RTO と RPO の定義、ビジネス要件との紐付け、DR パターン選択への適用、メトリクス測定を SAA 基礎から SAP 高度設計まで解説。

最終更新: 2026-07-27 カテゴリ: 高可用性・ディザスタリカバリ

RTO (Recovery Time Objective) と RPO (Recovery Point Objective) は ディザスタリカバリ 戦略の核心指標 です。 この 2 つが DR パターンの選択、コスト、アーキテクチャをすべて決定づけます。 本記事では RTO/RPO の本質と実践設計を SAA / SAP 両面から整理します。

SAA レベル:基礎概念

RTO と RPO の定義

指標略称定義意味
Recovery Time ObjectiveRTO目標復旧時間障害から 復旧までの許容時間
Recovery Point ObjectiveRPO目標復旧時点復旧時に 失っても良いデータの期間

SAA レベル:基礎概念

RTO と RPO の核心区別は 「時間」か「データ」か です。

  • RTO = 復旧にかける時間(「何分で復旧するか」)
  • RPO = 失うデータの量(「何時間前のデータまで復旧するか」) SAA ではこの 2 つの定義と違いが必ず問われます。

RTO/RPO の視覚的理解

タイムライン:
  過去 ──────────────── 障害発生 ────── 復旧完了 ── 未来
                          │                │
                          │←── RTO ──→│

              ←── RPO ──→│
              (この期間のデータは失われる可能性)
  • RTO が短い: 復旧が速い → ビジネス影響小
  • RPO が短い: データロスが少ない → データインパクト小

SAA 試験のポイント

RTO と RPO は 「ビジネス要件から決定し、技術要件ではない」 ことが重要です。 「このアプリは 1 時間以上停止すると重大損失 → RTO = 1 時間」のように、 ビジネスインパクトから逆算して設定します。SAA で頻出の考え方です。

RTO/RPO と DR パターンの対応

DR 4 パターンは RTO/RPO の許容値で選択します。

パターンRTORPOコスト
バックアップ & 復元時間単位時間単位最低
パイロットライト分〜十分
ウォームスタンバイ
マルチサイトリアルタイムほぼ 0最高

SAA 頻出

「RTO/RPO が短いほどコストが高い」 は SAA の核心原則です。 要件定義で「RTO 5 分、RPO 0」を設定すると、事実上マルチサイト一択になり高コスト。 「RTO 1 時間、RPO 1 時間」ならバックアップ & 復元で低成本実現。この対応が頻出します。

SAP レベル:高度な設計シナリオ

RTO/RPO の要件定義プロセス

SAP では ビジネス要件から RTO/RPO を導出するプロセス を設計します。

SAP レベル:高度な設計シナリオ

SAP の RTO/RPO 設計プロセスは 「ビジネスインパクト評価 → 許容停止時間 → 許容データロス → RTO/RPO 設定 → DR パターン選択」 の流れです。 ビジネス部門と合意の上で設定し、技術で実現可能かを確認する双方向プロセスが重要です。

1. ビジネスインパクト評価
   → 課金システム: 停止 1 時間で 1000 万円の損失
2. 許容停止時間の決定
   → 課金: 最大 15 分 (RTO = 15 分)
3. 許容データロスの決定
   → 課金: 注文データは 1 件も失いたくない (RPO = 0)
4. DR パターン選択
   → マルチサイト (アクティブ・アクティブ)

BIA (Business Impact Analysis)

ビジネスインパクト分析 (BIA) で各アプリの重要度を評価します。

評価項目説明設計論点
収益影響停止による直接損失課金アプリは高
コンプライアンス規制違反リスク金融・医療は高
ブランド影響顧客信頼低下公共面向は高
連鎖影響他システムへの波及依存システムは高

BIA の分類

BIA でアプリを Tier 1〜4 等に分類し、Tier 別に RTO/RPO を設定するのが SAP 定石です。

  • Tier 1 (ミッションクリティカル): RTO 分、RPO ほぼ 0
  • Tier 2 (業務クリティカル): RTO 時間、RPO 分
  • Tier 3 (一般): RTO 数時間、RPO 時間
  • Tier 4 (非クリティカル): RTO 日、RPO 日

RTO/RPO とコストの定量化

SAP では RTO/RPO の短縮に伴うコスト増を定量化 します。

RTO/RPO 設定必要な DR パターン概算コスト倍率
RTO 日、RPO 日バックアップ & 復元1.05x
RTO 時間、RPO 時間バックアップ + IaC1.1x
RTO 時間、RPO 分パイロットライト1.3x
RTO 分、RPO 秒ウォームスタンバイ1.5x
RTO 秒、RPO 0マルチサイト2.0x+

過剰 RTO/RPO 設定の罠

「全アプリ RTO 0、RPO 0」を設定するとコストが 2 倍以上に なります。 SAP では「Tier 別に段階設定」し、ミッションクリティカルだけ最高レベル、 一般アプリは適正レベル、の層別が定石です。

データベースの RPO 実現方式

RPO を実現するための DB レプリケーション方式:

方式RPO適用設計論点
定期バックアップ時間バックアップ & 復元バックアップ頻度で決定
非同期レプリケーション秒〜分パイロットライトAurora Global DB
準同期レプリケーションほぼ 0高信頼 DRレイテンシとのトレードオフ
同期レプリケーション0Multi-AZ (同一リージョン)リージョン間は不可

同期レプリケーションの限界

同期レプリケーションは同一リージョン内 (RDS Multi-AZ 等) で RPO=0 を実現 しますが、 リージョン間では レイテンシが大きすぎて実用的でない です。 リージョン間で RPO を最小化するには Aurora Global DB(1 秒未満)等の非同期方式が現実的。 この限界を SAP では押さえます。

アプリ層の RTO 実現方式

RTO を実現するためのアプリ復旧方式:

方式RTO実装設計論点
バックアップから復元時間AWS Backup復元時間を含む
AMI / IaC で迅速構築CloudFormation + AMI事前準備必須
スタンバイ環境のスケールAuto Scaling常時小規模稼働
DNS 切替のみRoute 53 + マルチサイト両サイト常時稼働

RTO 短縮のテクニック

「AMI の事前作成 + CloudFormation」 で RTO を大幅に短縮できます。 バックアップから復元するより、AMI から起動する方が圧倒的に速い。 SAP では「バックアップ & 復元」パターンでも AMI 活用で RTO を分単位に短縮する設計が定石です。

DR 訓練と実測 RTO/RPO

設定した RTO/RPO が本当に達成できるかを訓練で検証 します。

訓練項目目的頻度
フェイルオーバー訓練RTO 実測半年に 1 回
データ復元訓練RPO 実測半年に 1 回
DR 設定ドリル設定漏れ検出四半期に 1 回
フル DR 訓練全プロセス検証年に 1 回

訓練しない RTO/RPO は無意味

「RTO 15 分と設定したが、実測 2 時間かかった」 は典型的な失敗です。 訓練せずに設定した RTO/RPO は 目標であって保証ではない。 SAP では定期訓練で実測値を確認し、ギャップがあればアーキテクチャ or 設定を見直します。

コンプライアンスと RTO/RPO

業界規制によって RTO/RPO が要件化 されることがあります。

規制RTO/RPO 要件設計論点
PCI DSSバックアップ復元可能復元訓練必須
金融規制営業継続計画RTO/RPO の文書化
医療 (HIPAA)データ保護RPO の厳格化
SOX財務システム可用性RTO の保証

コンプライアンス対応の DR

コンプライアンス要件がある場合、RTO/RPO の設定 + 訓練記録 を監査に提示する必要があります。 「設定だけでなく実証できること」が問われるため、SAP では訓練記録の保管も重要です。

RTO/RPO の段階的改善

SAP では 段階的に RTO/RPO を改善 する設計も取り入れます。

# 初期段階
RTO: 4 時間、RPO: 4 時間 (バックアップ & 復元)
  ↓ (運用安定化)
RTO: 1 時間、RPO: 1 時間 (IaC + 頻度増)
  ↓ (ビジネス成長)
RTO: 15 分、RPO: 1 分 (パイロットライト)
  ↓ (ミッションクリティカル化)
RTO: 5 分、RPO: ほぼ 0 (マルチサイト)

SAP レベル:高度な設計シナリオ

SAP では 「初期は低成本パターンで開始、ビジネス成長に応じて段階的に RTO/RPO を短縮」 する設計を推奨します。 最初から最高レベルの DR に投資するより、アプリの重要度上昇に合わせて投資する方が 費用対効果が高い。この段階的改善判断が SAP の核心論点です。

制約と考慮事項

項目制約 / 注意
RPO = 0同期レプリケーション、同一リージョン内のみ現実的
リージョン間 RPO非同期で秒〜分が限界
DNS 切替の遅延RTO に TTL の影響を含める
訓練頻度最低半年に 1 回推奨

まとめ

  • SAA: RTO(復旧時間)と RPO(データロス)の定義、DR 4 パターンとの対応、 「短いほど高コスト」の原則を理解する。
  • SAP: BIA による要件定義、Tier 別設定、同期 vs 非同期の限界、 DR 訓練による実測、コンプライアンス要件、段階的改善が求められる。

次は Route 53 フェイルオーバールーティング設計 で、 DNS ベースのフェイルオーバー実装を学びましょう。

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